札幌地方裁判所 昭和48年(わ)169号 判決 1973年10月05日
主文
被告人A子を禁錮一〇月に、同B男を禁錮六月に各処する。
被告人両名に対し、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用のうち、被告人A子に付した国選弁護人に支給した分は同被告人の負担とし、証人中村毅に支給した分はその二分の一づつを被告人両名の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第一被告人A子は
一、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四七年九月五日午後一一時三五分ころ、千歳市春日町五丁目六番地の一九先道路において、普通乗用自動車を運転し
二、呼気一リットルにつき0.5メリグラム以上のアルコールを身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、前記日時場所において、前記自動車を運転し
三、自動車運転の業務に従事しているものであるが、前記日時ころ、前記自動車を運転し、同町二丁目付近から支笏湖方面に向け進行中、前記場所において道路左側端に一旦停止し間もなく発進しようとしたが、右側方および前方の安全を確認したうえ発進すべき業務上の注意義務があるのに、注意不十分のまま漫然と発進した過失により、自車の右側を追い越し左折しようとして自車の進路上に進入した中村毅(当三〇年)運転の普通乗用車に至近距離に至るまで気付かず、中村車両左後部に自車を衝突させ、よつて右中村に対し、加療約二週間を要する頸部捻挫の傷害を、中村車両の同乗者である武田敏子(当二七年)に加療約一九日間を要する頭部頸部挫傷、胸部打撲傷の傷害を各負わせ、
第二被告人B男は、
一、A子が酒に酔い正常な運転ができないおそれがあることを知りながら、昭和四七年九月五日午後一一時三五分ころ、千歳市春日町五丁目六番地の一九先道路において同女に前記普通乗用自動車を運転させ、もつて同女の酒酔い運転の行為を容易ならしめて幇助し
二、普通乗用自動車一台を使用し、その運行管理にあたり自ら自動車運転の業務に従事しているものであり、昭和四七年九月五日午後一一時三五分ころ、千歳市春日町二丁目付近で右自動車を運転中、同乗していたA子が酒に酔い正常な運転ができないおそれがある状態であることを知りながら、同女と運転を交代し自らはその助手席に同乗したものであるが、このような場合絶えず同女の運転および道路の状況に注意を払い随時適切な指示を与えるなどして事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、同市春日町二丁目付近から支笏湖方面に向け進行後間もなく同町五丁目六番地の一九先道路において一旦停止後、発進させるにあたり、後方から自車に追従してきた中村毅(当三〇年)運転の普通乗用者を認めながら、同車の動静を全く注視せず、同車の右側を追い越して左折しようとしているのを看過したまま何ら適切なる指示助言を与えることなく漫然同女をして同車を発進させた過失により、前記A子の過失と相俟つて中村車両左後部に自車を衝突させ、よつて右中村に対し、加療約二週間を要する頸部捻挫の傷害を、中村車両の同乗者である武田敏子(当二七年)に加療約一九日間を要する頭部頸部撲傷、胸部打撲傷の傷害を各負わせ
たものである。
(証拠の標目)<省略>
(過失の態様について)
(一) 被告人A子
前掲証拠から認められる被告人A子の当夜の飲酒量、本件事故の態様、事故後の同被告人の態度、酒酔い鑑識の結果を総合すると、同被告人が本件事故発生当時アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態にあつたことは明らかである。ただ知覚能力、判断能力、運転操作能力が著しく低下し、結果の発生を回避することがほとんど不可能であつたほど酩酊していたとは証拠上認められないので、前記判示のとおり予備的訴因に基づき事故直前の直接的義務違反を過失として認定した次第である。なお、中村毅運転の事両は狭い非舗装の鋭角に曲つた道路に左折しようとしたのであるから、被告車を追い越した後は著しく減速したものとみられ、また少くとも中村車が被告車と併進の状態になるまでは被告車は(左ウインカーを点滅させて)停止していたとみるべきだから、中村の過失は、ないとはいえないまでも、さほど大きくないというべきである。
(二) 被告人B男
被告人B男は同A子とともに飲酒し行動をともにしていたのであるから、A子が酒酔い状態にあり正常な運転に適さないことを認識していたというべきである。そして、自動車運転の資格を有し平生自動車運転の業務に従事している者が、自動車の運転に適さない者に自己が運行を管理する自動車の運転を委ねその自動車に同乗している場合には、当該運転者と一体となつて具体的状況に応じて事故の発生を回避するため手段を講ずべき業務上の注意義務がある。被告人B男の場合も同様であるが、同A子は正常な運転が不可能なほど酩酊または運転未熟であつたという事情は認められないから、前記判示のとおり予備的訴因に基づき事故発生直前の具体的状況下における注意義務違反を過失として認定した次第である。なお、被告車が一旦停止後再発進しようとしたとき、被告人B男は後続の中村車が既に至近距離に接近していることを認めたのであるから、同A子にそのことを告げて注意を喚起し発進を一時やめよう指示するなどの措置をとつて事故の発生を回避すべき義務があつたのである。
(法令の適用)省略
(清田賢)